窪田晶子の小話
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パイプのけむり
「唱歌の学校」からはや一週間・・・
早いものです。「唱歌の学校」の公演から一週間がたち、私は雪の北海道から東京に戻ってきているわけです。
昨日、日本歌曲のコンサートで歌ってきました。
「日本歌曲と音の魔術師たち」というシリーズで、今年は團伊玖磨作品をとりあげています。今回は團伊玖磨シリーズ最終回でした。
團伊玖磨さんは今年没後5年。オペラや童謡、交響曲、歌曲などなど多くの作品を残されました。“おつかいありさん”“ぞうさん”“花の街”・・・誰もが口ずさんだことがあると思います。
また著作も多く、とりわけ有名なのはやはり「パイプのけむり」ではないでしょうか。これは1964年からアサヒグラフで連載が始まり、廃刊になる2000年まで続いたエッセイです。ユーモラスであり、また批判的な要素がうまく組み込まれていたりもする。さらっとしていながら巧みな文章は読みやすく、非常に面白いエッセイです。これらは本になり出版されています。全27冊。36年分のエッセイですから27冊という多さにも頷けます。
話は戻りまして、このコンサートでは毎回「パイプのけむり」の朗読コーナーがあります。朗読はなんと日本声楽界の重鎮、伊藤京子さん。優しい語り口、過度ではない抑揚。飾りすぎず、それでいてユーモアや主張をのがさずに伝えてくれる。毎回この朗読は客席を和んだ雰囲気にしてくれます。今回、私の出番は早かったので、歌い終えてからすぐに着替え、客席でゆっくりと朗読を聞きくことができました。
團伊玖磨シリーズ最終回ということで、昨日は「パイプのけむり」最終回のエッセイが読まれました。年老いた自分のことなどを書き綴り、エッセイ最後の言葉は“さようなら”。その一言に近づくにつれ、伊藤京子さんの声はかすかに震え、そして涙交じりの声で“さようなら”と。最後にもう一度、正面を見つめ“さようなら”・・・團伊玖磨さんとは様々な思い出がおありなのでしょう。天国の團伊玖磨さんに語りかけた最後の“さようなら”という言葉。シンプルな言葉こそ、真の気持ちを表す最上級の表現なのかもしれません。思わずホロッとしてしまいました。
このエッセイを書き終えて7ヶ月後に他界された團伊玖磨さん。
その終焉を感じさせるような最終回のエッセイ、そして伊藤京子さんの声を震わせた朗読は、これからもずっと私の中に残っていくような気がしてなりません。
昨日は團伊玖磨さんの息子さんもコンサートにいらして下さいました。
なにはともあれ、無事に本番は終了しました・・・・
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